kengan

二日酔い

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 もともと深酒するタイプではない鷹山だが、王森が牙引退の決意を滅堂に打ち明けた日は、大いに荒れて、らしくない深酒をした。
 王森に出会うまで、鷹山の世界は同郷同期ともいえる滅堂の私兵たちしかおらず、身内の世界と外の世界でくっきりと線引きされていた。外の連中は自分たちと違い、仕事上の交流はあっても「こちら側」に立ち入る人間はおらず、逆に馴染むような人間であれば、そもそも同じ水を飲んで育ったようなもの。粗く二分割した世界に、王森は初めて「どちらでもある」立場で鷹山に関わってきた大人だった。王森のまっとうな常識や価値観と、強さゆえに堅気の世界に踏みとどまれなかった性分は、鷹山をはじめ、成人後も滅堂の元に残った私兵の若者たちにとって、外界に開いた窓のような大人だった。そして何より単純に、強かった。滅堂の牙として内にも外にも十全な王森は、鷹山にとって数少ない尊敬できる年長者だった。
 その王森が引退したいと言う。対戦カードを見た限り、まだまだ全盛期と鷹山は思ったが、王森と滅堂には思惑があるらしかった。どんな思惑なのかは、鷹山でなくとも解る。滅堂が秘蔵っ子として研ぎ続けてきた加納アギトを、外に放とうと考えてるに違いない。王森の話を聞いて鷹山は即座に憶測し、他の同期や護衛者も「だろう」と予想した。
 強さでは加納とギリギリ互角だが、王森への尊敬では負けない自信がある。自分なら、王森の功績を汚す真似はけしてしない。
 だが、自分には機会さえ与えられないかもしれない。
 王森への敬意と加納への対抗心に振り回され、誰にも感情を打ち明けられないまま、自分の部屋でひたすら酒を飲んだ。どんな酒をどれくらい飲んだのか。酒量が判らなくなってしばらくして、ぶつっと意識が途切れ、気づくと昼だった。成人してから任務や仕事で一度も遅刻しなかった鷹山は、初めて遅刻した。
 上司でもある王森に連絡すると、案の定、加納が護衛の代役としてついており、来られるようになったら来い、と言われた。
「すみません、王森さん」
「どうせ間に合わないんだ。ゆっくり来ていい」
 鷹山の初遅刻を王森は苦笑いで寛容に流した。傍に滅堂がいて、隣には加納がいると思うと夕べの深酒が死ぬほど悔やまれたが、やってしまった事は仕方がない。鷹山は身支度しようと起き上がり、壮絶な二日酔いの頭痛と吐き気に唸った。結局、支度して予定の場所に出向いたのは、滅堂が屋敷にそろそろ帰ろうかという頃だった。
 どうにか体を縦にして現れた鷹山を一目見るなり、王森は苦笑いした。
「ひどい顔しているぞ」
「昨日飲みすぎて……」
「正直は美徳だが、そんなに正直でなくていいぞ」
 鷹山の深酒と二日酔いを見抜いてたように、王森が言う。鷹山は思わず肩から力が抜けそうになった。正直、スーツを着て立っているだけでやっとの状態で、マスクをしているのでなんとか取り繕えているが、無駄口を叩く気力は皆無だ。王森の横で、御影石の置物のように静止して一瞥も寄越さない加納を睨み付ける気力もない有様だった。王森を中央に、加納の左隣にずいと胸を張ってたたずむ。
「二日酔いは初めてか?」
「いや……ただ、ここまでひどいのは初めてっスね……本当に申し訳ない」
「そろそろ自分の酒量を見極める年頃だろ、何飲んだか後で見とくといいぞ」
「そうします」
 振り向かず面白げに忠告する王森に、鷹山はどうにかこうにか返事をする。やけ酒を飲み始めた時、「王森の功績を汚す真似はしない」と誰にでもなく担架を切ったのに、早くも危うい自分の惨状に自分で腹が立って仕方がなかった。
 苛立ちに呼吸が浅くなり、ささくれた薄皮が皮膚の上に張り付いた心地がする。鷹山は姿勢を正して不快感をどこかへ押しやろうとし、ふと、頬に刺さる視線に気づいた。
 身幅四つ分ほど間を開けて、鷹山と対照の位置に仁王立ちする加納アギトが、無言で鷹山を見つめている。普段なら、無視するか、無言で睨み付けて済ませるかする鷹山だが、今日だけはどんな反応もできなかった。
 鷹山はけして振り向くまいと首に力を込めつつ、加納の心中をあてどなく想像した。鋭い視線は、マスクの隙間に覗く顔色から本調子でないと見抜いているに違いない。自己管理の甘さを責めているとも、弱者の隙を軽蔑しているとも、受け取れた。他人の体調に微塵も興味がないかもしれないし、二日酔いなどという無様が純粋に理解できないのかもしれない。何もかも見当違いに思えるし、すべて当たっている気もしてくる。
 王森より断然付き合いの長い鷹山だが、未だに白い顔の向こうで何を考えているのか、読み取れない時がある。視界に収めないようにしても、意識の端にあるずっしりした存在感は、黒いブロンズ像さながらの重さで、頭痛けたたましい鷹山の頭蓋に響く。
 鷹山の不機嫌は、威圧感になって醸し出され、そのまま風貌の異様さをいや増した。そうでなくてもマスク顔の異様さだげで、人目を引く。護衛の筆頭として一歩前に出ている王森の威風の後ろで、ひりついた存在感を見せる鷹山に、滅堂を招待した相手も気にし始めた。裏格闘技界に理解があり、いつもなら鷹山の異相も気にとめない人物だが、他でもない滅堂の直属護衛の一人がひりついた態度でいるのだ、何か危惧する事柄でもあるのかと勘ぐりたくもなる。
 滅堂が一瞥くれるより先に、王森が背後の様子に気づいた。無言で振り向き、冷静な目で鷹山を見やる。目顔で叱責された鷹山は、マスクの下で咳払いし、姿勢を正した。
(加納に気を取られる場合じゃねえ、意識をしゃんとして、仕事に集中しろ)
 不調に振り回される意識を、師範に教わった呼吸法を使って、腹のあたりに据え直そうとする。目を閉じても、意識の右側に鎮座する加納の存在感を、徐々に追いやり、締めだそうと試みる。
 マインドセットの試みは上手くいきかけた。鷹山は、重く響く頭痛と、胃袋のむかつきを切り離して押しやり、到着した時の具合の悪さ一切を手放せるところまで来ていた。ささくれ立っていた神経が鎮まり、主人・滅堂の小柄だが確かな存在感に集中する。
「そうまでするほど不調か?鷹山」
 右の聴覚に、冷淡なほど落ち着いた声が投げかけられる。淡々とした声に無防備な意識を叩かれて、鷹山は思わず右隣を振り向いた。
 加納の白く表情に乏しい顔。黒い目が静かに自分を見据えている。さっきと変わらず距離は開いているのに、加納の声は驚くほど間近で聞こえた。鷹山とまともに視線がぶつかり、加納は引き結び直した口元を微かに開く。気づいた、と無邪気に驚いた表情に、鷹山は睨み付けるタイミングを逸した。言い返す言葉もまとまらず、マスクの下、喉の奥で短く唸る。
「どうした、加納」
 後ろに控える二人の意識が場から逸れたのを感じ取ったのか、王森が右後ろを振り向いた。鷹山を見つめ、戸惑いだろう表情を引き結んだ口元に浮かべている加納に、王森は鷹山を一瞥する。
「鷹山か?奴は今日、二日酔いなんだ。放っておいてやれ」
 加納の視線に、病人を揺すり起こす悪気の無さを読み取って、王森がやんわりとたしなめた。自分の不始末を加納に知られ、鷹山は腹の底が羞恥でカッとなるのを感じた。マスクの下で奥歯を噛みしめる。王森にほんの一握りほどの恨めしさを覚えつつ、己の不摂生を改めて猛省する。
 王森が左に振り向き直して、うつむく鷹山を面白そうにからかう。
「病気じゃないって加納に説明してやれ」
「……勘弁してください。二度と、やらかしませんから」
 鷹山が、絞り出すようなうめき声で訴える。王森は、お灸を据えるのはこれくらいにしてやろう、と言いたげに緩く笑って向き直ろうとした。その背中に、加納のはきはきとした声がぶつけられる。
「ふつかよいとは、なんだ」
 王森と鷹山が同時に加納を振り向いた。辞書的な意味で問う加納に、王森は顎を軽く撫でてから、思案顔になる。二日酔いのつらさを、経験したことのない相手に伝えるのはなかなか難しい。そもそも加納は度を過ぎて深酒する心理すら、理解できるか怪しいところがあった。王森が鷹山を振り向こうとする、仕草を見た鷹山はすぐさま二人の方から顔を逸らした。斜め前から先輩格の揶揄する気配を感じたが、首筋に力を込めて頑として前を向く。
「二日酔いってのは、自分の酒量をわきまえずに飲み過ぎた奴に下る罰だ。頭痛、吐き気、倦怠感、あと自己嫌悪にやられて、グロッキーになる。大人になりかけの大人がよくやる失敗だ」
「何故わきまえない?」
「それが酒の力だ。お前は知らなくていい事だ」
「鷹山は知っているのにか?」
 重ねて問われた王森が、苦笑いの代わりに肩をすくめ、鷹山に目配せする。声色はいつも通りの無機質だが、口調にどことなく拗ねた調子があるように聞こえた。あの加納がこんな話で拗ねるわけが、と鷹山はぎょっとして、無意識に振り向いた。
 加納が、見て解るほどはっきりと怪訝な表情を浮かべている。不調になるほど痛飲する理由も、感情も、なにもわからない、と訴える面持ちだった。鷹山は言葉に詰まって喉でうめき、マスクの下で歯噛みする。目を合わせていると、加納が歩み寄ってきて無邪気に詮索してきそうな予感がして、鷹山はきっぱりと拒絶の空気を醸し出し、再び加納を意識の外に締め出そうとする。
 右耳あたりに「何故?」を問いたげな視線が刺さる。きっと、仕事が終わった途端に近づいてきて、納得のいく答えが得られるまで質問してくるに違いない。確かに今日の不調は自制心の足り無さ故だが、やけ酒に至った遠因は加納なのだ。今回の件に限らず、あらゆる行動の動機に、加納アギトがある。その事実が余計に、鷹山を苛立たせる。
(何の権利があって、テメェは俺の人生を振り回してんだ)
 内心で、何度になるか解らない罵声を吐き捨ててから、鷹山は拳を握りしめた。
 加納には、他人を振り回している自覚などない。遭遇した時と比べれば、幼稚な情緒を獲得し、強さに見合う態度を心得てきているが、それでも、他人を意識できているかすら怪しい。少なくとも鷹山はそう感じる。つるりとして鉱物めいた黒い目が自分を見つめる時、ふつふつと絶え間なく煮え立つ赤黒い泥濘のような血潮も鼓動も、何一つ、見えていないかもしれない。だから、鷹山は必ず加納の一番深い部分に爪を立てると、決めているのだ。
(今に、しこたま酒を飲まなきゃやってられないような負けを、テメェにも味わわせてやる)
 二日酔いの頭痛はまだじくじくと頭を鷲掴みにしている。それも、加納への対抗心が脈打つ痛みだと思い込めば、なんということもなくなった。

 
 
 
 
 

 久しぶりに三人で飲みにいかないか、と提案したのは王森だった。
 王森、鷹山、加納──かつての三羽烏が再び日本国内に集まってからしばらく、それぞれに優先する仕事や用事があって都合がつかなかったが、その夜はちょうど午後から翌日午前まで、三人の空き時間が重なると解った。王森の提案を加納は快諾し、鷹山は渋々、了承した。
 煉獄戦の後、表向きの拳願会も慌ただしかったが、裏の暗躍も忙しさを増していた。鷹山は蟲の動きに対抗するため、護衛隊の若手を引き連れて連日、荒事に駆り出されている。相手にしているのは蟲に指図された末端の下部組織だ。鷹山単騎でなら、どうとでもなる相手ばかりだった。単騎であたるのと部下を引き連れてあたるのでは、総体的な負荷が違う。元々、群れを引き連れる性分でない鷹山だが、滅堂の護衛兼秘書としての経験値で、生来の不足を補っている。
 辛抱強く部下をフォローしながら任務にあたっていたが、目に見えて疲労困憊してきた鷹山に、烈堂が休めと言い渡して、任意の有休を取れた。王森が予定した飲み会は、その有休にセッティングされた。
 予約したのは、拳願会で闘技車だった男がオーナーの飲み屋で、格闘技界隈でも評判の店だ。以前、鷹山が行ってみたいと話していたのを覚えていて、王森が独断で手配した。
 当日の待ち合わせに、最初に着いたのは王森だった。鷹山は五分前に現れて、先に来ていた王森に軽く頭を下げ、まだ来ていない加納にあからさまに憮然としてみせた。
「遅れんなっつったのによ……。つうか、加納は呼ばなくてもよかったでしょう」
「せっかく国内に残ってるんだ、誘わなきゃ気を悪くするだろ」
「んなことは、ないと思いますけど」
 労ってやろうと段取りした王森に、鷹山も感謝している。だが、加納も同席と言われると、反射的に渋い顔をした。
 一日半も休みがあれば釣りに出かけられるので、渋ったのはそのせいかと思われたが、鷹山の口から釣りの話が出てくる気配はなかった。丸一日半、休養に充ててもおかしくない。しかし、加納が参加すれば習い性で加納のお守りをしてしまう鷹山だ。煩わされず飲みたい、という正直な気持ちがマスクで隠した顔に表れている。王森は肩をすくめて呟いた。
「加納だって独り立ちして二年経ったんだ、自分のことは自分で面倒見るだろ。ビールが飲めるようになったかは知らんが」
「まだ飲めないッスよ、炭酸全般」
 鷹山の不満げな口ぶりに、王森は眉間を広げる。
 日銀にいた頃と比べて加納の情緒は大きく変化した。煉獄戦での戦いぶりを見れば明らかだ。王森は精神的にめざましく成長したとどこか胸をなで下ろした心地だったのに、鷹山は相変わらず手のかかる好敵手と見なしているらしい。鷹山も加納の変化に気づいていたはずなのに、よく知る過去の加納に固執するのはいささか頑固に思える。
 鷹山は馬鹿ではない。現状を客観的に把握できない人間に、護衛は務まらない。
「なんだ、煉獄のゴタゴタの後に、サシで加納と飲んだのか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
 王森も鷹山や加納と付き合いは長いが、やはり外様だ。子供の頃から切磋琢磨していた二人の時間には及ばない。自分を置いて旧交を温めていたらしい二人に苦笑いしつつ、「仲いいならいいじゃないか」と言っているうち、加納が横断歩道を渡ってくるのが見えた。
「来たな」
「遅え」
 めいめいに声をかける二人に、加納はどこかぼんやりした目で二人を交互に見て、鷹山を見てから、返事をする。
「すまなかった」
 明らかに怠そうな反応をする加納に、王森が首をひねる。元々、フィジカルが頑強で自己管理も怠らない加納が、普段と違うトーンで反応をするのは珍しい。顔色をうかがう王森と、腕組みして睨み付ける鷹山に、無言の視線を向けていた加納だが、はたと思いついた顔で微かに目を見開いてから、王森に向き直った。
「二日酔いなんだ」
「え?今日飲みに行く約束してたのにか?」
 とんでもない話に王森が目を丸くし、隣の鷹山も「はぁ?」と声を上げた。続けて何か言いたそうにマスク下で口を動かす。が、鷹山が声を出すより先に、加納が淡々と続けた。
「度を過ぎた耽溺で翌日不調になるのを二日酔いというのだろう。私は昨晩、鷹山を耽溺しすぎて不調らしい。なので、二日酔いだ」
 とんでもない事実を打ち明けた加納は、満足げな笑顔を二人に投げかけてみせる。ほぼ同時に、鷹山が無言のまま二人から顔を逸らした。
「……」
「……」
 気まずく重たい沈黙が王森と鷹山の間にだけ、ずうんと音を立てて立ちこめる。鷹山が一日半の休養について話題にしなかった理由が判明し、王森は自然に、ジト目で顔を逸らした鷹山を振り返った。あるがままを告げた加納はというと、無言で顔を逸らした鷹山を怪訝な様子で見つめている。その表情に一切の悪気はなく、むしろ二日酔いの定義を正しく理解できたと得意げですらあった。思いがけないリアクションに戸惑う加納に、王森は無言で肩を叩いてから、微動だにせずこちらを向かない鷹山に声をかけた。
「鷹山」
「……はい」
「加納とよろしくやってたならそう言えよ。お前らがそういう仲だってのは、二年以上前から知ってるんだぞ?」
 そっぽを向いていた鷹山がびくりと肩を震わせた。恐る恐るに王森を振り向く。
「……マジっすか」
「いや、解りやす過ぎるだろ、お前は。むしろ、気づいてない連中が鈍すぎる」
 絶句する鷹山に、加納は拍子抜けしたように鷹山を見下ろす。
「だから王森に誤魔化しは不要だと言っただろう」
「あのな、だから、体面つうか、あるだろ、そういうもんが」
「つまり、私とセックスして愛し合う間柄になったのは、後ろめたい事なのか?」
「んなわけあるか!」
 端的すぎる加納の問いに、鷹山がすかさず吠え返す。間があってから、「あ゛ーっ」と声を上げて頭を抱え、しゃがみ込んでしまう。王森は自爆した鷹山に「あーあ」と言いたげな視線を向ける。語るに落ちるにしても、勢いが良すぎた。全力否定で全力肯定したも同然の答えだった。
 加納は鷹山の答えに満足げで、さっきの気だるげな態度は何処へやら、見知らぬ他人から見て解るくらいの上機嫌の表情で王森を顧みる。王森は頭を抱える鷹山に一抹の憐れみを覚えつつ、「良かったな」と加納の肩を叩いてやるしかなかった。
「ただまあ、往来でする問答じゃなかったなぁ。加納、鷹山と一緒に、今日の俺の飲み代支払ってくれ」
「何故だ?」
「なんでもだ」
 軽いお灸のつもりで言い含める王森に、加納はやはり解っていない様子だった。
 合わせる顔がないと言いたげに、まだしゃがんで唸っている鷹山に、王森が声をかける。
「そら、鷹山も。照れ隠しに凹んでるフリしてないで、とっとと行くぞ。予約の時間になっちまう」
「フリじゃねえ~!」
 マスク下でしゃがれたうめき声を上げた鷹山は、しばし間を置いてから、覚悟を決めて立ち上がった。怒りか、恥ずかしさか、目元まで赤くしたまま、ごまかすように加納を睨み付ける。しかし、不思議そうに見返してきた加納の表情に毒気を抜かれてしまう。
(……まあ、こいつに白々しい芝居させる事自体、おかしいんだよな。いい加減、俺も腹ァくくれって話だ)
 深呼吸ひとつ、開き直って姿勢を正した鷹山は、王森を見やった。
「今日の飲み代、全部俺持ちでいいんで」
「へぇ。甲斐性あるなあ、鷹山」
 感心したように冷やかす王森に、もうそういうのいいんで、と手を上げて制止する。一人、話の筋がちゃんと解っていない加納だけが、二人のやりとりをじっと目で追いかけている。
 王森に促され、三人は店に向かって歩き出した。二メートル超えの男三人も、大通りの往来から飲み屋の建ち並ぶ雑踏に入ってしまうと他の人々と大差なく、目立ちながらも埋没していった。

「鷹山、私も払うぞ」
「いいからもうお前黙ってろ」
「鷹山~、亭主関白は今時流行らんぞ~」
「王森さんもちょっと黙っててください!」

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