明け方、うとうと目を覚ますと、穏やかな体温に背中を包まれ、横たえた体をゆるく抱きしめられていた。
長い髪のたわむ首筋に、すうすうと深い寝息が聞こえる。門倉は南方の寝息に眠気を誘われそうになって、身じろぎした。二度寝の誘惑を振り払って、自分を抱き枕にする男の腕をそろっと掴む。
(いつ潜り込んだんじゃ、コイツは)
待てど暮らせど帰ってこない家主に、門倉は晩酌を諦めて先に寝た。ベッドに潜り込んでくる相手に勘づかなかったということは、深夜、眠りが一番深い時間に帰ってきたのだろう。
(起こせばいいものを……)
門倉は、ゆるく自分の腰をかき抱く手の甲を撫でる。だらしない寝顔でも拝んでやるか、と門倉は寝返りを打って振り向こうとした。
「……」
ん、とかすかに声がして、腰に回された腕に、いっそう力がこもる。さも抱き心地が良さげに、下腹に手を伸ばし、脇から回した手で胸をつかむ。内ももやら胸やらを夢現の中で愛撫してくる手に、門倉は鼻先で呆れたため息を付いた。
「おどれ、将来はきっと、スケベじじぃになるわ」
小声で憎まれ口を叩きながら、やんわりと緩慢な動きで、緩めた筋肉を撫でられる、もどかしい気持ちの良さに目を伏せる。
もしこれが、狸寝入りのイタズラで、よどみなく前戯に変化し情事へと流れ込んでいっても、今の門倉は許してしまいそうだった。寝起きの、どこかぼやけた意識のせいだろうか。うなじに感じる鼻面や、ふと眠りに引き戻されるように力の抜ける手、喃語じみた寝言に至るまで、どうしようもなく愛おしく思える。
(しようのない犬じゃのお)
みっちり背中から抱え込む腕は力が抜けているくせに重く、容易く姿勢を変えられそうにない。門倉は後ろから抱きつかれたまま、思い出したように撫でてはぱたりと力の抜ける、南方の両手に両手を重ねた。愛撫の仕方を教えてやるように、体の好く感じる場所へと導いて、指を絡めて促す。
「……、ん……」
すー……と寝入ってしまう南方の息づかいを聞きながら、門倉はうっかり喉から転び出そうになった喘ぎを飲み込む。背中で感じる南方の鼓動は穏やかなのに、自分の肌はじわじわと炙られて焦がれ、切なくうずき始めてしまっていた。
(……起こすか)
寝かせておいてやるつもりだった門倉だが、自分一人が引っ込みのつかないことになっていくのは、面白くない。
腕を絡め人形よろしく操って遊んでいた手を放し、腕の中から抜け出す。その気になれば、南方の上体くらい腕一本で撥ねのけられるのだ。起こさないよう抜け出すのも、わけないことだった。
勝手に借りたトレーナーと厚手のスウェットパンツを脱いで、床に投げ捨てる。その上に下着も脱ぎ捨てて、全裸になる。
そうして、門倉を背中から抱きしめる格好で腕にぽっかり隙間を空けたまま、ぐっすり眠っている南方の体を、仰向けにひっくり返した。
巨躯がごろんと転がり、ベッドのスプリングが軋む。
「……んぁ……?」
突然仰向けにひっくり返され、掛け布団を捲り上げられて、さすがの南方も目を覚ました。肌寒さに身震いし、反射的に両腕で顔を覆って唸る。
「まだ……、時間じゃ……」
起床時間までまだ時間があるはず、と言いたいのだろう。寝ぼけている南方を見下ろすと、門倉は唸る南方の上に跨がり、そのままするする足下の方へと下がって、かがみ込んだ。
寝汚くむずがる南方に構わず、寝間着代わりのスウェットを下着ごと腿まで引き下ろす。
「……っ、……ぇ、なに……?」
くんにゃりと萎えたペニスを優しく片手で押し包むと、先端をぺろりと舐める。二度、三度と繰り返す。四度目で、南方はバチッと目を開けて飛び起きようとした。
「な、なに」
跳ね起きた南方の上体を、門倉が即座に片手で押さえつける。軽くではない、ねじ伏せる力で押さえつけたせいで、ギシッ、ミシッとベッドが悲鳴を上げた。状況がわからないまま、体を押さえ込まれ、頭を枕にめり込ませ南方は、一重の切れた目をこれ以上ないくらい、まん丸に見開いた。
「か、門倉!?」
頭の後ろから発したような素っ頓狂な声を上げた南方に、門倉は構わず、指と舌で目を覚まさないソレをくちくちと苛め始める。
寝起きの光景にしては刺激が強すぎる有様に、南方は興奮するより呆然とした。
「な、なにしとるんじゃ……」
唖然とする南方を、門倉はジロリと睨めつけた。
「寝ぼけたどこかのボケに、体を好き勝手まさぐられて煽られたんでのお。仕返ししとるとこじゃ」
「! そ、それはスマンかった、じゃからて、お前、こがぁな真似……」
「……」
門倉は構わず、手の中ですぐに質量を増していくモノを、扱いたり息を吹きかけたりして揶揄う。ちろちろと舌を這わせながら、言い返してくる南方を見やる。視線のあった南方が息を呑む。その気配を、門倉は聞き逃さなかった。
寝起きに味わうには過激な悪戯を見て息を呑んだのではない。隠し事を飲み込む息づかいだった。
門倉は、露わになってきた頭の部分をちょっと唇に含んで舐めてから、すぐ口を離して焦らした。南方がもどかしげに腰を浮かせるのを見て、髪がかかるほど近く寄せていた顔を離す。膝立ちになり、まだ硬さと反りの足りないペニスよりも上、臍のやや上まで這い上がってきて──全体重を乗せてずんと座り込んだ。
「ぐえっ!」
「なんじゃあ? 失礼な奴やのお。たまに乗ったるときは、だらしない顔で喜んどるくせに」
「だらしない顔なんぞしとらん、というか、胃の上に全体重乗せられたら、あんな声も出るわ!」
「ふん。さっき呑んだ唾吐いたら、どいたるよ」
「……!」
門倉に隠した気配を嗅ぎつけられたと悟って、南方が目をそらす。解りやすい態度に、門倉は片手で乳首をちぎるように抓った。
「っ、痛!」
「……」
「そがな顔するな! 言うたるけぇ、つねるのはやめぇや」
門倉がじっとりと責める目つきで睨め下ろすと、南方は強情を張らず、早々に観念した。
「まあ、その………」
しかし、南方は降参したものの、すぐには切り出さなかった。焦れた門倉は胸の上に乗せた手を、背後に回す。全裸で乗り上げている門倉の、艶姿や肌に感じる体温と湿度に反応して、それは門倉の尻に擦り付けられるくらい勃ちあがっていた。すっかり硬く滾ったものの先端を、片手で握りこむ。手の甲で亀頭を撫で回して苛めると、南方は顔をしかめて唸り、「わかった」と音を上げた。
「その、お前を抱いて、めちゃくちゃに可愛がる夢を、ずっと見とって……」
「…………」
「夢と思うたのが、半分寝ぼけてたのかもしれん、その……」
南方が恥じ入ったように押し黙る。門倉はきょとんとしてから、すぐにニィー……と両頬を歪めて歯を剥き出す笑みを浮かべた。ろくでもない企みをしているときの笑顔に、生殺与奪権を文字通り握られた南方の顔が、ひくっと引き連れて強ばる。
門倉は座り込んだ腿をさらに広げると、内腿の間で南方の脇をずりずりとくすぐり、擦り上げた。
「……っ」
胃を潰さんばかりに押しつけていた尻たぶを持ち上げ、膝立ちに立ち上がると、もつれた朝寝髪を垂らして俯き、期待と怯えの入り混じった南方の顔を見下ろす。笑ったまま、片手で弄っていた陰茎の先を、尻の間に擦りつける。
「南方。おどれの夢、今から正夢にしたろうか?」
南方が目を丸くして、門倉、と呼ばわろうとした。その声は、四つん這いになり、上から覆い被さった門倉の唇に吸い込まれ、喉の奥にごくりと音を立てて飲みこまれてしまい、門倉の腹の内から出て行くことはなかった。
正夢にしてあげる
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