kengan

my junk is you

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 三羽烏で待機中、三人揃って食事をする事がままある。 弁当屋の弁当であったり、デリバリーだったり、レストランで外食したりと様々だが、ジャンクフードは避ける傾向にある。これは滅堂が昔言いつけた食生活管理の癖が抜けない加納のためで、王森から貰うまでカップ麺を食べたことがなかったくらい、徹底している。
 なので、安いファーストフード店でハンバーガーをしこたま食べる、という脂質糖質に全振りした昼食も、三人で食べたのが初めてだった。
 不味いが旨い、あの不思議な感覚を初体験した加納は、驚き、齧ったパンズとパテとソースをまじまじと凝視して固まってしまった。
 加納の鉄面皮を見破れる鷹山と王森だけは、ジャンクの味に遭遇して心底驚いたと解り、王森はくすりと笑い、鷹山は知らねえのかよと悪態をついた。
 ホワイトミートの人工的な噛み応えにも、油を吸いすぎた食感のフライドポテトにも、いちいち考え込んだ。新鮮な食材の味とはかけ離れた、人工物の味。味覚の快楽だけ突き詰めた味は、加納を大いに混乱させた。他の二人が食べ終わってもまだ食べ終えられず、しまいには鷹山が苛々とせっつくほどだった。
「こんなもん、味わって食うもんじゃねーよ」
「味わう必要がない料理なのか?何故?」
「そりゃあ……、いいからさっさと食え」
 疑問を投げかける加納の純粋な目に上手く応えられず、鷹山は乱暴に突き放した。自分と大して年が変わらないくせに、人間らしい食事の習慣を得てから十年弱しか経っていない加納の生い立ちを思って、鷹山は上手く説明できなかった。そんな鷹山の苦い懊悩をつゆ知らず、加納は不可思議な料理を一口ずつ噛みしめた。
 明らかに体に悪い、だが無軌道で奔放で「楽しい」。栄養と味の矛盾をどう扱ったものか考えあぐねた加納は、たまにやってくるジャンクフードの日を少し心待ちにするようになった。食べるたびに、鷹山が苦い顔で何か言いたげにしているのも、妙に気になった。食べると決まって、鷹山が嫌味っぽい口調で言うのだ。
「こんな悪いモン食ったんだ、後でツケを払えよ」
 鷹山の言う「ツケ」──カロリー消費の負債を、加納はすべて鷹山に支払った。トレーニングの枠を超えるスパーリングの時間も併せて、加納の楽しみだった。鷹山も揶揄った手前、言葉を引っ込めるつもりがないのか、ジャンクフードと加納に滅多打ちにされるのがセット売りの状態になった。
 最初こそ食べ方からして覚束なかったが、すぐ適応した。適応したが、そもそも溢れる形状なので溢すし、包み紙についたソースが顔につくのも避けられない。
 仕事の都合でやむなくファーストフード店に入った三人は、角の大人数向けのテーブル席を占拠して、加納の興味を引いたメニューを並べていた。ラージサイズのパンズが、小ぶりのパンにでも見えそうなサイズ感で、店内は声にならないざわめきで満たされていた。三人とも、こういう場には慣れっこだ。
 気になるのは周囲から向けられる好奇の視線ではない。加納のもたくたとした食べ方だった。
「加納、テメェは幼児かよ」
「む」
 鷹山の舌打ちに、加納が視線を上げる。広げた包み紙に鼻面を突っ込むように齧っている加納に、鷹山が呆れつつ横から手を出した。
「また顔にソースついてんだよ。そういうのは、こうやってな……」
 加納の握りしめたハンバーガーを横から取り上げ、広げっぱなしの包み紙を畳み、顔に張り付かないようにしてやる。ついでに、頬にぺっとりついたバーベキューソースを指で擦り落とした。
「手ぇかけさせんなら、もう食いに来ねえぞ」
 ソースを拭き取った指を舐めとり、鷹山が舌打ちする。加納は鷹山の注意を聞いて、殊勝な顔で頷いてから、すぐパンズにかじりついた。
 鷹山が次のハンバーガーに手を伸ばす。黙々と食べつつ、横目で加納の様子をちらちら確認している。呆れるほど面倒見のいい同僚の様子を眺めていた王森が、ふと意地悪く笑った。
「今の鷹山の言い回し、ちょっと母親っぽいな」
 なあ、と加納に尋ねるが、加納は解らないと答える代わりに緩く首を振る。加納は、過去に何度か言われたことがある「母親みたいな面倒見の良さ」という表現が、鷹山を揶揄するのに使われていたと記憶している。王森の言葉は、気さくな間柄で交わされる悪口だ、と認識して首を振ったのだった。他人が言う「母親の面倒見よさ」を鷹山が持っているらしい事実は、特に否定する気はなかった。──が、さすがの王森・鷹山も、ここまで読み取れはしない。
 王森の冗談に、鷹山が青筋を浮かせてじろりと睨む。
「不気味な冗談はよしてくださいよ。 つうか、アンタもちょっと面倒見たらどうです、自分の後継者でしょうが」
「俺は放任主義でなあ」
 咀嚼しながら、二人の掛け合いを聞いていた加納は、口の中のものを飲み込んでから鷹山を振り返った。
「手を掛けさせてしまって、すまない。 鷹山」
「うるせえ。お前は食うのに集中しろ、手元から目を離すな、また溢すぞ」
 きびきびと注意し、食事に集中させようとする鷹山を見て、王森がドリンクのカップを揺らす。
「うーん……百歩譲って、面倒見のいい兄貴だな」
「アンタと言えどもそれ以上続けたら、俺も本当に怒りますよ」
「もう怒ってるじゃないか」
 王森が低い声で肩を揺すって笑う。鷹山は憮然としてハンバーガーに食いついた。そして、隣の加納が上手く食べられているかを、横目で確認してしまう。
 バーガーを片付けた加納は、ドリンクを無心で啜っている。ズゴゴッと音をさせ、底までひと息に飲み干した後、カップをトレイに置こうとした。
 スーツの袖口がケチャップの入った容器にくっつきそうになったのを、鷹山は見逃さなかった。すかさず加納の腕を鷲づかみにして回避すると、ソースの容器を自分のトレイに避ける。
「…っぷねえな。手元見ろっつったろ」
「む……」
 加納が用心しつつカップを置き、トレイの上を見た。ソースや油がつきそうな紙くずを丁寧にまとめて避けると、ナゲットの箱を真ん中に据える。鷹山を顧みて確認する顔で見つめると、鷹山が「そうしとけ」と答える。 口調こそあしらう調子だが実質「よくできました」と褒めているも同然だった。
 やり取りを一通り眺めていた王森は、空になったカップを凹ませて弄びながら、
「過保護は加納のためにならんぞ」
と呆れ顔で鷹山を諭す。すると、面倒見の良い不器用な同僚に、またもギロリと睨まれた。

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